感想

感想を書きます

今年よかったやつ

僕が今年読んだり見たり聴いたりしてよかったやつです。

 

 

・乗代雄介『本物の読書家』『未熟な同感者』(小説)

書き、読むという行為そのものの本質を追い求める気鋭の小説家、乗代雄介の二冊目の単行本です。より深く、誰も見たことのない場所に筆先で入り込んで行く様はさながら求道者のようです。『未熟な同感者』はデビュー作『十七八より』の後日談でもあります。

 

 

・マームとジプシー『モモノパノラマ・クラゲノココロ・ヒダリメノヒダ』(演劇)

劇団マームとジプシーの10周年企画として、三つの戯曲を一つにまとめて再構成したものです。再構成される前の一つ一つを見ていないのですがめちゃくちゃおもしろかったです。時が進んで行くことの残酷さと救済、世界が自分とは関係なく回っているような疎外感、生きることへの祝福と抵抗を、台詞のリフレインや二場面同時進行などの演出を用いて鮮やかに描いた素晴らしい芝居でした。

 

 

夢の遊眠社『小指の思い出』(演劇)

野田秀樹が主宰する劇団『夢の遊眠社』の名作です。旧約聖書に登場する魔女アタリヤの末裔と、辛抱や貧困を決意に昇華すべく車に自らの身体をぶつける当たり屋の姿を緻密にに掛け合わせる、ダブルミーニングをこれでもかと駆使した台詞回しは圧巻です。モグリの女当たり屋で禁断の白い実売りでもある魔女・粕羽聖子に扮する野田秀樹の艶やかな演技も必見。

https://youtu.be/PHV3lXbR2lw

 

 

野田秀樹『オイル』(演劇)

野田秀樹が自身の劇団を解散した後の企画である『野田地図』の第9回公演です。野田演劇の御家芸である、二つのエピソードの同時展開、言葉遊びで芝居を作ってしまう圧倒的な脚本力、壮大で哀切なストーリーなど、野田演劇の魅力が詰まっています。主演に松たか子を迎え、藤原竜也小林聡美などが脇を固めます。やはり遊眠社の俳優に比べると声の迫力は少し劣りますが、松たか子の鬼気迫る演技だけでも一見の価値ありです。

https://youtu.be/Uc-zW84hP_4

 

 

・森義隆『聖の青春』(映画)

夭折の天才棋士村山聖羽生善治に挑む様を描いた映画です。絵面がすごく地味ですが、めちゃくちゃおもしろかったです。東出昌大の演じる羽生善治がちょっと衝撃受けるくらい美しいです。棋士として生きることの業を丁寧に描き出した、ストイックな映画です。

 

 

・カーマイン・コッポラ『ゴッドファーザーPARTI』(映画)

言わずと知れた名作。すっげーカッコいいです。たまらん。

 

 

太宰治『カチカチ山』『ヴィヨンの妻』(小説)

『カチカチ山』は「性格の喜悲劇」を昔話に仮託して身も蓋もなく描いた快作です。本当に気持ちいいくらい身も蓋もないんですが、たしかにそうだよなあと思わされます。

ヴィヨンの妻』は確か映画化もされんでしたっけ。酒癖の悪い小説家の貞淑な妻、そのしたたかさと悲哀を優しく(だからこそ残酷に)描きます。

 

 

平田オリザ『演技と演出』(新書)『転校生』(戯曲)

『演技と演出』は、世界を股にかける劇作家平田オリザが文字通り演技と演出について語った新書です。平易な言葉で目の覚めるような演出論を語る過激な一冊です。

『転校生』は、「朝起きたら、この高校の生徒になっていた」という不思議な転校生を巡ったり巡らなかったりする女子校生たちのダラダラした会話がひたすら繰り返される戯曲です。びっくりするほど何も起こりませんが、しみじみとした情緒があります。時折挟まれる文学作品のタイトルを登場人物の状況に符合させる引用の技が巧みに決まっています。平田オリザの引用術、マジックのようで小憎らしいです。

 

 

・Have a Nice Day!×大森靖子『Fantastic Drag』(楽曲)

「東京にしかないアンダーグラウンド」Have a Nice Day!と大森靖子が悪魔的なコラボレーションを果たした傑作です。大森靖子が作詞したリリックもハバナイ的な空気を纏っていて、大森靖子ハバナイは意外とベースの部分が共通しているのかも知らないと思いました。それか大森靖子の作詞能力が幅広すぎるかのどちらかです。

追記…浅見北斗が「〜からの救済」を歌ったのに対して、大森靖子は「〜への抵抗」を歌っています。その最小公倍数としてラストがある感じでしょうか。

 

 

シベリア少女鉄道『たとえば君がそれを愛と呼べば、僕はまたひとつ罪を犯す。』(演劇)

過激で斬新な脚本で毎度お騒がせする劇団・シベリア少女鉄道の2017夏の公演は、約二時間の上演時間、前半一時間で練り上げたものを全部フリにして後半一時間でふざけ続けるとんでもない怪作でした。言葉・物語の意味がどんどん失われていく、混乱と爆笑の坩堝。全てが重なり合って迎えるフィナーレは全く無意味でバカバカしいのに不思議なカタルシスがありました。凄すぎる。凄すぎる〜〜。

 

 

早見和真『イノセント・デイズ』(小説)

元交際相手が家族と暮らす家に放火し、幼児を含む3人を焼死させたとして死刑判決を受けた田中幸乃。控訴を勧める弁護士の声も聞かず、彼女はただ執行の日を待ちます。なぜ彼女は死を望むのか?なぜ凶行に走ったのか?誰が彼女を救うことができるのか?田中幸乃の周囲の人物の視点から、その哀しい生を浮かび上がらせます。ミステリーとしても十分に読み応えがありますが、何より、早見和真はこれを書かずにはいられなかったのだろうと思わせられる凄まじい迫力。僕は読んでて辛すぎて、読み終わった後一日中うずくまって過ごしました。

 

 

・チラシのウラ『現代路上神話』『偽史山人伝』(web漫画)

現代にも存在しうる神話が書かれたメモを拾ったのでその内容を書き写す、という体で書かれた『現代路上神話』は、神話(虚構)と現実の境目が溶けていくような錯覚を起こします。

かつて日本にいた「山人」という生物の生態を圧倒的なリアリティで描く『偽史山人伝』は、完全な作り話でありながら、歴史のあり方や人間存在の危うさに迫った作品です。

http://tirasimanga.web.fc2.com/TUM/041/041.html

http://tirasimanga.web.fc2.com/TUM/042/042.html

 

 

・J.D.サリンジャー『テディ』

サリンジャーの短編集『ナイン・ストーリーズ』の中の一編です。度を超えて利発な少年テディと周囲の人間との会話を描いています。利発が度を超えています。あらゆる事象には意味があるのか?意味を見出すことに意味はあるのか?という命題に迫る、サリンジャー作品の中でも、彼自身の発想の核のようなものが色濃く出た短編であるように思います。

 

"象が大きいのは、何か他の物ーー犬とか女の人とか、そういったものと並べたときだけ言えることでね
(中略)
つまり、もしも草は緑だと教えると、子供たちは初めから草をある特定の見方ーー教えたそのご当人の見方ーーで見るようになっちまうーーほかにも同じようによい見方、いやもっとはるかによい見方があるかもしれないのにさ……よく分かんないけどね。ぼくはただ、両親やみんなが子供たちにかじらしたりんごを、小さなかけらの果てまでそっくり吐き出さしてやりたいんだよ
(中略)
ある物がある態度をとる代わりにある形で存在するからといって、それが無知蒙昧の理由にはならないさ"

(『テディ』より抜粋 )